以前、ある製造業の社長様から、事務や現場で働く社員からの改善提案が出ないという悩みを聞きました。その会社では過去に改善提案に対して報酬を出していましたが、それでも提案が増えなかったそうです。
このような状況に対して、「改善提案とは、実は非常にレベルの高い要求です。社員にそれを求めるのは得策ではありません。」と助言しました。今回は、社員に改善提案を求めずに改善をする方法について述べていきます。
1.改善提案の難しさ
改善提案とは、社員が自発的に業務上の問題を把握し、対策を考え、効果を試算し、書面にまとめて提案するという非常に高度なプロセスです。これは、病気の患者が自分で診断を行い、検査や治療法を医師に指定するようなものです。患者が医師に治療を委ねるのと同じく、改善提案から実行までは専門家に任せた方がより効果的なのです。
2. 社員が改善提案を出さない理由
社員が改善提案を出さないのには、下記の理由が考えられます。
- 改善方法が不明: 問題を把握していても、どう改善して良いか分からない。
- 自己能力不足の懸念: 複数の社員が同じ業務をしている場合、問題提起が自分の能力不足と思われるリスクがある。
- 人間関係のリスク: 目立った行動が、同僚との人間関係を悪化させるリスク。
- 改善失敗のリスク: 改善が失敗した場合、その責任を負うリスク。
- 報酬の不確実性: 改善が成功しても、報酬が少ない、または確約されていないことがある。
さらに、職場からの改善提案は全体を俯瞰できていないポジションの社員が発案しますので、部分最適になりがちです。せっかく社員が頑張って改善提案を出しても、一度却下されてしまうと萎縮してしまい、次の提案が出にくくなります。
3. 専門家による問題解決の重要性
そこで、私が行う現場改善コンサルティングでは、社員から改善提案を求めるのではなく、職場の問題を抽出することに重点を置いています。職場が抱える問題点や困っていることを徹底的にヒアリングし、対策は私が考えます。ただし、改善策が押し付けにならないように、途中で職場の意見を聞きながら、経営層を含む関係者と事前にすり合わせを行います。また、本格実施前には必ずテスト運用を行い、慎重に改善活動を進めます。この手法は時間がかかりますが、失敗のリスクを最小限に抑えられます。
4. 社員モチベーションの向上
通常、コンサルタントには人事権がありませんので、社員との人間関係がうまく構築できると、気軽に相談して貰えるようになります。さらに、コンサルタントという調整役が入ることで、改善活動による社員間の軋轢を生むことがなく円滑に進められます。
また、私の場合は、改善により得られた便益を金額で評価し、その一部をボーナスとして社員に還元することを事前に社長に約束してもらいます(通常便益の1/3を賞与原資としてもらいます。)。これにより社員のモチベーションが向上するのと、コンサルタントへの協力も得られやすくなります。
また、ある程度改善活動が軌道に乗ってくると、徐々に社員たちが自ら考えて行動できるようになってきますので、コンサルティングは後方支援がメインとなっていきます。
5. 会社側にとってのメリット
会社側には一時的にはコンサルティング費用が発生しますが、その費用以上の効果を期待できます。更に社員が改善すると自分たちの収入が増えると実感できますので、より意欲的に働いてくれるようになります。
まとめ
改善提案は社員に求めるのではなく、問題提起にとどめた方が改善活動を進めやすいです。問題解決をプロに任せ、社員に手本を見せることが、より効果的な改善につながります。有能なコンサルタントに依頼することも経営者の仕事であるといえます。