【事例】契約書なしの取引が招いた債権回収トラブルと解決策
最近、OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターのお客様で売掛金ができずに相談を受ける事案が相次いでいます。契約書なしで取引を進めた結果、想定外のトラブルに見舞われた事例をもとに、契約書の重要性と取引リスクを軽減する方法について解説します。
はじめに:契約書の重要性
契約書は、取引における双方の権利義務を明確にし、トラブル発生時の法的根拠となる重要な文書です。私が会社勤めしていた際、上司から「契約書とは自分を守るための武器であり盾である。」と教えられました。
しかし、日本の中小企業では、いまだに口約束で取引を進め、トラブルになるケースが多く見られます。本記事では、契約書がないことで発生した2つの事例を紹介し、対策方法を考察します。
事例1:許認可取得代行の未払いトラブル
状況
ある行政書士が許認可取得代行を依頼され、口約束で業務を進めたそうです。業務が完遂し、請求書を送っても依頼主から報酬を支払ってもらえなずどうしたら良いか?という相談がありました。依頼者とは連絡は取れるものの、言い訳を繰り返し支払いを先延ばしにされていたそうです。
解決方法
ヒアリングの結果、相手と連絡がつき、実態のある店舗でビジネスをされているとのことだったので、再度期限を決めて支払い督促し、期日までに支払いがない場合は委任権限に基づき、許認可を取り下げることことを提案しました。また、許認可を出した行政機関にも報告すると付け加えるようにもアドバイスしました。
結果
今回は相手からの支払いがあり解決しましたが、相談者は債権回収に至るまでの精神的負担が大きかったと振り返っていました。。今後は、契約書や少なくとも見積書を提示し、支払い条件を明記したり、前金での受注を徹底することをアドバイスしました。
事例2:商社の夜逃げ債権回収不能
状況
別のレンタルオフィスの会員様から相談を受けた事例です。相談者は大手企業向けに製品を設計・製作し納品していました。しかし、その大手企業は中小企業と直接取引したがらないことから、大手企業から紹介された商社を経由で取引していたそうです。大手企業からの紹介ということで安心したため、その商社とは何ら契約書を締結していなかったそうです。ところが、その商社が夜逃げしたため、売掛金数百万円の債権回収不能に至りました。商社の事務所は既にもぬけの殻で郵便物が山積みされ、連絡もつかないそうです。
解決方法
相談者には、商業登記簿を取得して商社の代表者個人の住所に支払い督促の内容証明郵便を送ったり、不法行為により法人と代表者個人を対象とした民事訴訟をすること弁護士に相談してはどうかと提案しました。また、紹介元となった大手企業にも事態を説明するようアドバイスしました。
結果
相談者は、契約書がないことや裁判への抵抗感から債権回収を諦めたそうです。ただ、相談者には仕入れ債務があったため、支払いのため、アルバイトをする事態になっています。
契約書作成のメリット
身近に起きた2つの事例を紹介しましたが、これらに共通するのは、やはり契約書なしに取引を進めてしまったことです。もちろん、契約書があったからと言って売掛金の回収ができる訳ではないですが、契約書があれば法的根拠として支払い督促したり、訴訟で有利になります。更に、支払い遅延の場合のペナルティや代表者個人への連帯保証をつけさせることもできます。また、金額が大きい場合は一部前金にしてもらうという方法もあります。
最も大事なことは、契約書を作成する過程で、自社にどんなリスクがあり、それを回避する方法を考える時間ができることです。これにより、相手が本当に望ましい取引先なのかを見極め、取引上のリスクを低減することができます。
契約書のおかげで訴訟に勝利
自分で契約書を作成するとなると手間や時間が掛かりますし、法律もある程度知らなければなりません。また、弁護士にリーガルチェックを依頼すると費用も掛かります。
ですが、これらの手間や費用を掛けることが自分を守る保険となるのです。実際、OBCでもレンタルオフィスの会費滞納者に対し損害賠償請求訴訟をしていますが、その根拠となるのはやはり契約書です。現在、2件の裁判が進行中ですが、1件は完全勝訴、もう1件は概ねこちらの主張が認められた形での和解が成立しました。両者とも会費滞納分だけでなく、違約金や延滞利息まで支払うことになりました。これらの権利は契約書に記載があり、合意していたからこそ認められたのです。
継続取引や金額の多い取引、トラブルリスクになると感じた場合、まず契約書の作成から始めることを推奨します。相手が急いでいるとか納期がないからと言った場合でも、しっかり準備をしないと、後でトラブルに発展するリスクが高いです。代金を支払ってもらえず、支払いは猶予されず、弁護士費用まで掛かるとなると、資金に余裕がない場合、会社倒産してしまう恐れがあります。
まとめ
契約書は、トラブルを未然に防ぎ、万が一の際に自社を守る強力なツールです。特に継続取引や金額の大きい案件では、契約書を作成する時間を惜しまず、リスクを軽減するための準備を徹底しましょう。また、費用が掛かっても弁護士によるリーガルチェックを依頼することを推奨します。第三者の意見や法的根拠に基づく強い契約書を作成できます。
ご契約は慎重に!