製造業の知見で診る非効率な病院運営の改善方法

病院経営と製造業の共通点

病院(クリニックを含む)経営は製造業に似ています。それは一連のプロセスが決まっており、流れ作業で進む点が共通しているからです。私は製造業向けのコンサルティングを本業としています(OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターは副業?ではありません。こちらもしっかり力をいれております。)ので、その視点で病院を観察していると、非効率な運営が多いように感じます。また、問題があっても改善されずに放置されているようにすら感じます。そこで、今回は病院の問題点と業務改善について考察します。

病院のプロセスと製造業の類似点

病院の一般的なプロセスを製造業に置き換えると以下の通りです。

  1. 受  付→材料受入れ
  2. 診  察→加工・製造
  3. 検  査→検査
  4. 結果説明→梱包・出荷
  5. 会  計→請求書発行

このように、病院と製造業は業務プロセスはほぼ同じなので、製造業向けの現場改善コンサルティングの応用が利きます。実際、元京セラ会長である稲盛和夫氏が提唱したアメーバ経営の手法は、京セラがコンサルティング事業として販売しているようです。

製造技術コンサルティングの経験から病院を観察すると、多くの問題点が浮かび上がります。特に、多くの患者が不満を持ち、実際、病院の口コミに書かれている問題点は次の通りです。

  1. 待ち時間が長い
  2. 受付対応が悪い
  3. 医師の診察・治療に不満がある

です。3.の治療に関しては専門外のため割愛しますが、1と2について、原因と対策を考えてみたいと思います。

1 待ち時間と受付対応の問題とその原因

製造業では待ち時間を減らすことで生産量の増加やコスト削減が可能ですが、多くの病院では待ち時間を減らす改善活動が進んでいないようです。ジャストインタイムとは程遠いのが実情です。その原因としては次の点が挙げられます。

  • 管理監督者の不在:クリニックでは通常、院長が診察しているため、受付事務の仕事を把握できていません。
  • 急患・予約なしの患者への対応:完全予約制でない限りこちらはやむを得ない場合もあります。
  • 待ち時間が不明:病院によっては診察までの待ち時間が表示される場合もありますが、検査や会計までの待ち時間を表示されるのは少ないです。その結果、患者から待ち時間を尋ねられ、事務作業の効率が低下します。
  • 相談機会の欠如:受付担当が受付中に責任者である院長に相談できず、仕事のやり方に問題があっても気づけません。
  • 経営知識の不足:医師は治療の研究はしても、経営についての勉強が疎かになりがちのように感じます。
  • 診察がボトルネック:院長の診察がプロセスのボトルネック*1となり、改善しても報酬アップにつながりません。
  • 業務改善の経験不足:受付担当が業務改善の経験が少なく、言われたことをこなすだけで精一杯のように感じます。特にパート社員では収入に上限があるため、改善して評価を上げようとする意識が引くなりがちです。

*1 ボトルネックとは、瓶の一番細い部分という意味で、その工程が生産能力の上限となります。他の工程を改善したとしても、各工程で待ち時間が発生するだけで、生産能力は増えません。但し、だからと言って改善する必要がないということではないです。

2. 改善方法

改善策として、次のアプローチが考えられます。

  1. 患者の時間分析:改善の第一歩は問題の見える化です。まずは受付から会計まで、各工程に掛かった時間とそれまでの待ち時間を分析します。傾向をつかむことが目的ですからおおよその値で構いません。ただ、改善効果を検証するために、継続してデータを分析する必要があります。
  2. 防犯カメラの活用:院長が受付や事務業務を把握できるように、防犯カメラで待合室の状況を確認できるようにする。
  3. 院長休診日の活用:院長が休診でも他の先生が代診している場合は、その時を利用して受付・事務作業を確認します。
  4. 外部コンサルタントの活用:外部コンサルタントに依頼し、患者の視点と改善のプロの視点から問題点の抽出、改善方法やその評価方法をアドバイスしてもらえます。但し、システム会社への相談はお薦めしません。彼らは何かとシステム販売に繋げようとし、コストUPに繋がってしまうからです。まずは現行システムでの改善活動が必要です。

3. 改善活動の効果

改善活動を行った結果、仮に売上(診療報酬)が増えないとしても、受付や看護師、検査技師などの業務に余裕が生まれ、患者に優しく接したりミスが減るという効果が期待できます。その結果、病院の評判が良くなったり、人員配置を見直してコストダウンや事業拡大に繋げることができます。

4. まとめ

病院の待ち時間の問題はまだまだ改善の余地があります。また、受付窓口は患者と最初に接する病院の顔です。院長は医師としてだけでなく、経営者として自院の診断や治療を行い、問題点を改善していくことが求められます。待ち時間の短縮やプロセスの効率化を通じて、患者満足度の向上と業務の円滑化を目指しましょう。

5. 余談

今回、私がこのテーマを選んだのはやはり病院への不満があるからです。診察や検査、治療には満足していても、それまでの過程・やり取りには不満があります。そして、各病院にも共通して言えることは余裕がないことです。どんな組織でも余裕がないと良い仕事はできません。業務改善コンサルタントとして何か力になれないかと考え、今回のブログに書くことにしました。