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2025年06月11日

「できているようでできていない」5S活動の取組み方

多くの企業で導入されている5S活動。整理、整頓、清掃、清潔、そして躾(しつけ)。これらの頭文字を取ったこの活動は、生産現場をはじめとする職場の改善において、その効果が広く認識されています。しかし、実際に現場を訪れてみると、「5S活動はしているが、期待する効果が出ていない」「スローガンだけで、形骸化している」といった声が少なくありません。

本記事では、この「できているようでできていない」5S活動がなぜ発生するのか、その根本的な問題点を深く掘り下げていきます。そして、単なるスローガンに終わらせず、5S活動を確実に定着させ、真の成果へとつなげるための具体的な取り組み方法を解説します。

5Sで重要なのは「順番」

5Sの定義は今さら説明するまでもないかもしれませんが、改めてその重要性を再確認しておきます。

  1. 整理 (Seiri):必要なモノと不要なモノを区別し、不要なモノを処分すること。
  2. 整頓 (Seiton):必要なものを使いやすいように整えること。
  3. 清掃 (Seisou):きれいに掃除すること。
  4. 清潔 (Seiketsu):1〜3の状態を維持すること。
  5. 躾 (Shitsuke):1〜4の状態を習慣にすること。

ここで、私が強調したいのは、この「順番」です。1番目の整理を行わずして5Sは成立しないのですが、多くの現場では、「整頓」と「清掃」の中途半端な2Sとなっています。この理由は、5Sの中で最も難易度が高いのが最初のステップである「整理」だからです。

最も難しい「整理」の壁:なぜ現場はモノを捨てられないのか?

「整理」は、不要なモノを捨てるという判断を伴います。特に現場主体の改善(私はボトムアップカイゼンと定義しています。)では、この判断が非常に難しいのです。これが5S活動の大きな問題点の一つです。

その理由は2つあります。

  • 責任追及への懸念: 現場の判断でモノを捨ててしまい、後から「なぜ捨てた?」と責任を追及されることを恐れるため。他の項目はやり直しがききますが、一度捨てたモノは元には戻りません。
  • 会計上の問題: モノが固定資産に計上されている場合、除却などの経理処理に加え、財務指標の悪化にもつながるデメリットがあります。

余談ですが、私が現場改善を担当した際、不要な金型(簿価で数千万円)を廃棄しようとしたところ、会計上の理由から経理担当の役員から待ったを掛けられたことがありました。

こうした背景から、私は「整理」に関しては、現場主体のボトムアップカイゼンではなく、トップダウンカイゼン、あるいは外部コンサルタントを活用した外部カイゼンを推奨しています(トップダウン・ボトムアップ・外部カイゼンの違いはこちらの記事で解説しています)。

「整理」こそが経営者の仕事:三現主義の実践

上述の通り、モノを捨てるという判断は、企業の資産に関わる重要な経営判断です。これは現場に任せるのではなく、経営層が率先して行うべきだと考えます。

また、経営者が現場で現物を見て現実を知る「三現主義」を体現する絶好の機会でもあります。

ただし、経営者が直接現場に指示を出すのはあまり推奨していません。理由は、経営者の指示は単なる業務命令であり、現場のモチベーションを下げてしまうからです。そこで有効なのが、専門のコンサルタントを活用した外部カイゼンです。コンサルタントの選定は難しいですが、外部の客観的な視点を取り入れることで、スムーズな「整理」が可能になります。なお、コンサルタントの選び方についてはこちらの記事で解説しています。


5S活動を確実に定着させる「シン5S」の考え方

私は、「躾」という言葉は好きではありません。理由は、動物や子供を躾けるといった表現もあるように、上から目線の印象を与えるとしてパワハラを助長するような気がしてならないのです。

そこで、私は「躾」を「習慣化」に置き換えることを提案します。このように、自社に使いやすいように修正すること自体も「改善」の一環と言えます。

私が推奨する新しい5S「シン5S」(新と真を重ねた造語です)は、それぞれのフェーズで誰が主体となって取り組むべきか、その役割を明確にすることで、より効果的な5S活動の定着を目指します。

シン5Sの役割分担と定着の秘訣

1.整理は、経営者が率先する。

整理はモノを捨てるという経営判断を伴うため、現場だけに任せるべきではありません。経営者が責任を持って判断し、実行することで、現場も安心して取り組めます。5Sの第一歩であり、最も重要な経営判断です。

2.整頓は、現場と管理部門が共同で取り組む。

現場だけでは、長年の慣習や先入観にとらわれ、効果的な整頓が難しい場合があります。そこで、管理部門(あるいは外部コンサルタント)が関与し、客観的な視点と現場とのコミュニケーションとの相乗効果で、より効率的で使いやすい環境を構築できます。生産性向上に直結するポイントです。

3.清掃は、全員参加で行う。

清掃を特定の担当者に任せてしまうと、「担当者がいないから汚れていても放置される」といった事態に陥りがちです。名経営者が率先してトイレ掃除をするという話があるように、全員が日々の清掃に携わることで、美化意識が高まり、異常にも気づきやすくなります。職場環境改善の基本であり、気づきの感度を高めます。

4.清潔は、管理者によって維持する

清潔な状態を維持するには管理が必要です。管理者が維持するための仕組み(ルールや点検など)を構築し、運用することで、常に清潔な状態を保つことができます。維持管理の仕組み化が、シン5Sを形骸化させないポイントです。

5.習慣化は、日々の積み重ね。

ここで、4の「清潔」で維持しているのになぜ習慣化する必要があるのか?という疑問が沸くかもしれません。4の清潔にはデメリットがあります。それは管理コストです。管理者を任命し、管理指標の作成や管理状態のチェック、結果報告などには当然ながらコストが発生します(時間ロスも含めて)。この管理コストを掛けずに4Sを維持することが習慣化です。例えば、4Sは子供が歯磨きや宿題を自分でしているが、母親のチェックが必要な状態、5Sはそれらが自分でできるようになる状態を想定すればイメージがつきやすいと思います。

習慣化は禁煙や禁酒と同じで、一朝一夕には身につきません。全員が日々意識し、努力し続けることで、初めて定着します。継続的な取り組みが、シン5Sを定着化させることに繋がります。


まとめ:「シン5S」の定着で職場を強くする

5S活動は、単なる美化活動ではありません。その本質は、業務効率の向上、品質の安定、安全性の確保、そして社員の意識改革にあります。特に最初の「整理」を経営層が主導し、各部門や担当者が適切な役割分担を行うことで、5S活動が「できているようでできていない」状態から脱却し、真の成果を生み出すことができます。

OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターでは、経営改善のプロが現場改善のコンサルティングも行っております。製造業以外でも5S活動やカイゼン活動に関する支援が必要あれば、お気軽にご相談ください。


2025年05月29日

沖ツラ見て好きになったシーサーが殺風景すぎてジオラマにした

こんにちは。今回はゆる~い話題です。ビジネスとは全く関係ありません。ゴールデンウイークに行った沖縄旅行とシーサー、そして手作りジオラマのお話をお届けします。


沖縄に行ったきっかけは「沖ツラ」

今年のゴールデンウィークに初めて沖縄旅行に行ってきました。

そのきっかけは、アニメ「沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(通称:沖ツラ)」を観たことでした。内地とは違う独特の文化や、ユルくてほんわかした世界観に惹かれて、「実際に行ってみたい!」と旅に出ることにしました。


かわいいシーサーに一目惚れ!

沖縄滞在中は国際通りや首里城、玉泉洞などを観光しました。さんぴん茶やポーク玉子おにぎりなどを堪能し、かりゆしウェアも買っちゃいました。

そして、美浜のアメリカンビレッジで購入したのが、今回の主役、カラフルなシーサーの置物です。この派手なシーサーは石垣島の米子焼(よねこやき)とのことです。お土産屋さんで初めて見て思わず一目惚れしました。

このシーサー、最初はそのまま自宅に飾っていましたが、派手な色に対し、何か物足りない……。ちょっと殺風景すぎる……。寂シーサー(アニメのセリフです)……ということで、思い切ってジオラマにしてみました!

タイトルはズバリ、

『沖ツラ見て好きになったシーサーが殺風景すぎてジオラマにした』=沖ジラ


ジオラマ製作スタート!~材料と作り方~

ベース(土台)

  • 100均のフォトフレームを使用
  • フォトフレームはそのままだと沈むので、裏から木で補強しています。
  • フォトフレームの周囲は汚れないようにマスキングテープを貼っています。
  • 同じく100均の粘土を盛って地形を作りました。乾燥するとひび割れしましたので、再度粘土を盛って補修
  • その上からタミヤの情景テクスチャーペイント(ライトサンド)で砂浜風に仕上げ

ヤシの木

  • 材料ユザワヤさん(OBCから徒歩1分)で購入したフラワーアート用針金、麻ひも、緑の画用紙
  • 幹の部分:針金を束ねて麻ひもをグルグル巻き、木の質感を表現(製作写真撮り忘れました)
  • 葉っぱの部分:画用紙を2つに折って、葉っぱの外形を切り出す。真ん中に針金を入れて切り込みを入れていくと簡単に製作できます(ただ、数が多かった)。
  • 接着:木工用ボンドとホットメルトを併用

🌤 背景(青空)

  • 100均のMDFボードを使い、光沢紙に印刷した青空画像を両面テープで固定。
  • 裏面はMDFの端材を接着して自立するようにしました。
  • ※背景の青空は、実際に美浜のアメリカンビレッジで撮影したものです!

完成!

製作期間は約1週間(乾燥時間込み)貸し会議室の空いている時間を利用して製作しました。特にヤシの葉っぱ作りに時間がかかりましたが、とても楽しい製作体験でした。

今回はリアルさはあえて追求せず、主役のシーサーを目立たせることを重視して、シンプルな構成にしました。ただ、南国らしさは表現できたと思います。

ちなみに、OBCにはお子様連れの利用者も多いため、夏休みの自由研究や工作の参考にもなるかも?と思いながら作っていました。


「石敢當」も置いてみたい!

完成後、もう少し何か足したくなり……。
やはり沖縄といえば「石敢當(いしがんとう)

沖縄旅行中はまさかシーサーをジオラマにするとは考えていなかったので買ってきませんでした。

近々、東京交通会館の「銀座わしたショップ本店(沖縄県物産公社)」で探してみようと思っています。良いのが見つかれば、ジオラマに置いてみようと思います。


まとめ|ジオラマ作りは自由で楽しい!

ジオラマ製作といえばプラモデルを組立・塗装し、それを配置するのが一般的ですが、今回は、お土産ものシーサーをジオラマにするというチャレンジでした。自由な発想で沖縄らしさを表現できたのではと思っています。

「沖ツラ」から始まり、シーサーに惹かれ、ついにはジオラマ作りへ――。
旅の思い出が、立体作品として残るのもいいものですね。

もし興味があれば、ぜひチャレンジしてみてください!お子様の自由研究や夏休みの工作にもおすすめです!

また、製作に関するご相談もお受けします。

本作品はOBC 大田ビジネスコミュニティーセンターの3階に展示してあります。


2025年05月09日

改善コンサルが読む『ANAのカイゼン』─良かった点、惜しかった点

はじめに:沖縄旅行と「ANAのカイゼン

ハイサイ。4月末に沖縄へ行ってきました。今回の旅ではANAを利用し、機内で『ANAのカイゼン』という本を読んでいました。私は改善コンサルティングを本業としているため、興味深く読了しつつも、いくつか気づいた点もありました。そこで今回は書評(辛口です)と、実際に搭乗して感じた“カイゼンすべき点”についてお話ししたいと思います。

※文中では、本の表記に合わせ「カイゼン」と表記を統一します(改善との違いは本書にて説明されています)。


ANAのカイゼンの概要と良かった点①

この本によると、ANAのカイゼンは2015年に整備部門から始まったとのこと。これは意外でした。私は2003年に大手製造業に入社し、早々に現場カイゼンに関わりましたので、大手企業なら既に当然のようにカイゼン活動を行っているものと思っていたからです。

やや遅いと感じたものの、「今日が自分にとって一番若い日」。やや遅さは感じつつも、このタイミングで始めたこと自体は素晴らしいと思います。


カイゼンは製造業だけのものではない

トヨタ自動車が生み出したカイゼン手法は製造業のイメージが強いですが、本質は「収益のカイゼン」であり、業種や業務内容は問いません。例えば、以下のようにどんな業種でも共通の業務フローを持っています。

業種フロー
製造業材料仕入れ → 加工・組立 → 検査 → 出荷
整備業搬入 → 整備 → 検査 → 搬出
飲食業食材仕入れ → 調理 → 味見 → 提供
理容業来店 → カット → 検査 → 退店
病 院入院 → 診断・治療 → 検査* → 退院

*治療後の退院可否判断としての検査。

このように、作業の流れが存在する業種であれば、すべてカイゼンの対象となります。


カイゼンの三分類とANAの位置づけ

ANAの取り組みは、いわゆる「自主カイゼン」「QCサークル」に分類されるもので、私はこれを「ボトムアップ型カイゼン」と呼んでいます。

私はカイゼンを以下の3つに分類しています:

  • トップダウン型カイゼン:経営・管理層による方針転換や設備投資など
  • ボトムアップ型カイゼン:現場主導の改善(QCサークルなど)
  • 外部カイゼン:コンサルタントなど第三者の視点によるカイゼン

私は「外部カイゼン」を本業としています。社内に専属担当者を置く場合もありますが、重要なのは「第三者の視点」と「現場との良好な関係構築」、「経営層と現場間でのカイゼンの橋渡し」をすることです。


良かった点②:定量化… CAの業務時間削減について

本にはCAの年間業務時間を21,000時間削減したとあります(P4)。ANAのCAは約8,000人(P162)で、稼働率を70%と仮定すると1日あたり約5,600人が勤務していることになります。

  • 21,000時間 ÷ 5,600人 ≒ 3.75時間/年/人
  • これは月あたり約0.3時間(≒20分)程度になります。

削減効果はあるものの、ばらつきや実感には乏しい数字にも思えます(辛口です)。

ですが、ここで最も大事なことは業務時間が本当に減ったのかどうかを定量的に評価しているという点です。

特に中小企業では、なんとなくとか、どんぶり勘定でカイゼンはしているけど、効果がよくわからないという事例が多いです。


良かった点③:5S活動に関して

整備部門の5S事例が紹介されています。工具を「見える化」して再購入を防止するというのは、どんな企業でも導入しやすく良い事例だと思います。欲を言えば、CAや地上係員などのよりサービス業に近い職種の事例も見たかったです。整備部門は整備工場という言葉があるぐらい、製造業に近い業務フローですので。

なお、私の経験では、多くの企業が5Sを「導入している」と言いますが、実際には2S(整頓・清掃)しかできていない印象です。ボトムアップ型のカイゼンでは5Sの中でも「整理」が特に難しいと感じています。理由は現場レベルでは不要なものを”捨てる”という判断がなかなかできないからです。この件については後日別の記事で詳しく述べたいと思います。


惜しかった点①:紙の削減=カイゼン?の落とし穴

紙の使用枚数を年間4,000万枚から半減した(P104)という事例がありますが、単に紙をタブレットに置き換えただけでは不十分です。

まず5Sの「整理」すなわち、書類自体を廃止・簡素化できないかを徹底的に行わないと、タブレットでも検索の手間が増えてしまいます。これはECRS(Eliminate・Combine・Rearrange・Simplify)の原則に則ったアプローチが望ましいです。


惜しかった点②:搭乗体験で気づいた改善余地

1. 搭乗前の動線案内の不明瞭さ

搭乗の順番を示すGroup 1~3などの看板が見づらく、並ぶ位置に迷う人が多かったです。看板を高くする・横幅を広げる・プラカードを持つなど、視認性の改善が必要です。P108には動線のカイゼンという内容が書かれていますので、是非応用して欲しいです。

2. 優先搭乗アナウンスの不明瞭さ

小さなお子様連れの案内後に小学生くらいの家族も搭乗するようにアナウンスしていました。これは問題ないのですが、親御さんの方が迷っている印象を受けました。該当範囲を明確にアナウンス(例:「小学生以下も対象です」)すればスムーズに案内できます。

3. B787のトイレ“使用中”の表示が見えにくい

B787のトイレ扉上部には緑と赤ライトがあります。遠くから見る分にはわかりやすいのですが、扉の前に行くと気づきにくいです。また、扉のロックの位置にも緑と赤の表示がありますが、この表示が小さく、使用中かわからずに開けようとする人が複数いました。これは色の塗り分けや表示面積を大きくするだけで簡単にカイゼンできます。

使用中にドアノブをガチャガチャされるのは、誰しも嫌ですよね。

この3つの事例で気づいた点は、カイゼンの担当者(いるかどうかはわかりませんが)が現場に出ていないことです。P48には三現主義(現場・現物・現実)が徹底されていないことです。なお、カイゼン担当者が現場を見る際は、担当者・経営者・利用者の3つの視点で見ることが重要であると付け加えておきます。


惜しかった点③:「ありがとう」だけでは足りない評価制度

「褒め合う文化」や「KAIZEN AWARD」は良い取り組みですが、成果が金銭的利益を生むなら還元すべきです。私は経営者に対し、カイゼンによって得た利益の1/3を従業員に還元するよう提案しています。やはりモチベーション維持には「ありがとう」だけでは不十分で、カイゼンの定着は難しいといえます。


惜しかった点④:なぜなぜ分析(P66)は要注意

なぜなぜ分析については本来真因分析に使いますが、対象を“ヒト”にしてしまうとパワハラになってしまいます。これについては過去のブログで戒めています。

本書では Q.エアコンのフィルター詰まったのはなぜか? という例が載っていますが、あえて悪い例と言わざるを得ません。

✕ ヒトに原因を求めるパターン(NG)
→「掃除しなかったから」→「担当者がいないから」→…

○ モノや仕組みに焦点を当てた分析(OK)
→「空気が汚れていたから」→「埃が多かったから」→…

ヒトを責めずにカイゼンするため、私は「Why」ではなく「How」で問題を解決すること推奨しています。

例:「どうすればフィルターが詰まらないようにできるか?」

というように、原因の追及よりもカイゼン方法の追及の方が取り組みやすいです。


まとめ:“良かった点”と“惜しかった点”から見えたANAのカイゼンの可能性

ANAのカイゼン活動は、特定部門の一過性の取り組みではなく、全社的な文化として定着させようとしている点に、大きな価値を感じました。特に、現場主導のボトムアップ型カイゼンをここまで全社に広げた努力は、素直に称賛に値します。現場の知恵を引き出す仕組みを構築し、定着させるには、時間も手間もかかるからです。

一方で、外部の視点から見ると、現場観察の徹底度、カイゼン効果の実感、評価と報酬の制度設計など、さらに伸ばせる余地も多く感じました。これは裏を返せば、ANAのカイゼン活動にはまだまだ成長の余地とポテンシャルがあるということでもあります。

私はANAという企業にとても好感を持っています。旅の安心感や、スタッフのホスピタリティは世界に誇れるレベルです。だからこそ、「もっと良くなる」と信じて辛口な意見も書きました。

これからもANAが日本の誇るサービス企業として、空の安全だけでなく、地上の業務にも“改善文化”を根づかせていくことを期待しています。そして、業界の枠を超えて、製造業以外にもカイゼンの文化が広がっていくきっかけになることを、心から応援していますし、また搭乗します。

OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターはプロのコンサルタントによるカイゼン導入も支援しています。

2025年04月16日

バーチャルオフィスとレンタルオフィスの違いとは?注意点や選び方を解説

最近、「バーチャルオフィスとして法人登記をしたい」というご相談が増えてきました。OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターでは、バーチャルオフィス利用での料金体系は設けておりませんが、レンタルオフィス契約をすることでバーチャルオフィスとしての利用していただいているお客様が多いです。

当社の場合、他社のバーチャルオフィスに比べて料金はやや高くなりますが、そこには明確な理由があります。

この記事では、

  • バーチャルオフィスとレンタルオフィスの違い
  • 契約前に知っておくべき注意点
  • 利用に向いている人のタイプ
    について、分かりやすく解説します。

バーチャルオフィスとは?

バーチャルオフィスは、主に「住所利用」を目的としたサービスで、法人登記や郵便物の転送が可能です。
料金は月額数千円とリーズナブルで、都心の一等地の住所を利用できるケースもあります。

主な特徴:

  • 物理的なオフィススペースはなし(または別料金)
  • 郵便物の受け取りや転送代行あり
  • 無人運営または最小限のスタッフ配置

低価格で法人登記ができるため、初期費用を抑えたいスタートアップに人気ですが、注意すべき点もあります


レンタルオフィスとは?

レンタルオフィスとは、実際に作業できるスペースを備えたオフィスのことを指します。OBCのレンタルオフィスの概要はこちらをご覧ください。
一般的には、個室またはパーテーションで区切られたブース形式のデスクが提供され、共用で利用できる会議室や打ち合わせスペース、Wi-Fi、複合機などのビジネス設備が整っています。

一般の賃貸オフィスとの違い、敷金・礼金・仲介手数料・内装工事・ネット回線の契約などの初期費用が掛からない場合がほとんどです。最小限のコストですぐに業務を開始できるのが魅力です。

また、光熱費や清掃、ネット回線の保守なども月額料金に含まれているケースが多く、コスト管理がしやすい点もメリットです。


バーチャルオフィス契約前の注意点

バーチャルオフィスは低料金や利便性が高い反面、安易に選ぶと後悔することもあります。例えば、以下のような点に注意が必要です。

1. 行政手続きの所在地に注意

法人登記をした住所が、自宅から遠いと法務局・税務署・年金事務所の管轄も遠方になり、書類提出時に交通費や時間が余計にかかります。オンライン化が進んでいるとはいえ、手続きの相談や直接書類提出したい場合には遠方だと手間が掛かります。

2. 銀行口座開設のハードル

バーチャルオフィスの住所によっては、金融機関で口座開設が難しい場合もあります。また、銀行口座開設は会社の最寄りの支店でしかできないので注意が必要です。また、銀行に対して、なぜその住所で法人登記し、事業を行うのかを明確に説明しないと口座開設できない場合があります。

3. トラブル放置のリスク

トラブル企業が退去せず登記を残したまま放置されている事例もあります。違約金の設定があっても、訴訟費用で赤字になるため実質的な対処が難しいのです。よって、格安のバーチャルオフィスでは入会前にヒアリングしてみるのも良いかもしれません。

4.補助金や利子補給を受けられない場合がある

地域によっては、行政が補助金や融資の利子補給などを行っている場合があります。バーチャルオフィスの所在地でそのような行政サービスを受けられるかを事前に確認しておいた方が良いです。地域によって、支援内容が異なっており、大田区ではものづくり系や海外進出支援の行政サービスが多い印象です。

5.オプション料金に注意

法人登記や住所利用の料金が安くても、郵便物や宅配便の転送サービスはオプション料金となっている場合が多いです。また、バーチャルオフィスによっては自分で回収に行くことができない拠点もあります。OBCでは実費のみで転送していますし、ご要望に応じて即日発送もしております。

✅【OBCでは…】
トラブル企業に対しては裁判で移転登記をさせるようにし、住所の信用を守っています。10年以上の運営実績があり、新設法人でも都市銀行での口座開設実績があります(OBCで断られたという話を聞いたことがありません)。また、入会審査もしっかりと行っており、不適切だと思われる方の入会をお断りしています。OBCがバーチャルオフィスをやらない理由はここにあります。


「住所が一等地」=「成功」ではない

勘違いして欲しくないのは、一等地の住所で法人登記をしても、中身が伴っていなければ事業はうまくいきません
住所だけでは信頼を得られないということです。むしろ、開業したばかりで都心の一等地に住所がある場合、バーチャルオフィスだとすぐに見抜かれるかもしれません。

ただし、バーチャルオフィスをうまく活用してコストを抑え、本業に集中するという選択肢ももちろんアリです。


バーチャルオフィスが向いている人

  • 自宅近くにバーチャルオフィスがある方
  • 会社経営経験があり、事務手続きやリスク対応を自分でできる方
  • ECサイト等で一等地の住所にメリットがある方
  • トラブル時に相談できる人脈が豊富な方

レンタルオフィスが向いている人

  • 起業したばかりで営業や事務の知識が不十分な方
  • 誰かに気軽に相談できる環境が欲しい方
  • 自宅と仕事を分けて、オンオフを切り替えたい方
  • 会議室を使う場面が多い方

公的支援機関の活用もおすすめ

東京都の「TOKYO創業ステーション」や大田区の「六郷BASE」などの公共のインキュベーション施設では、創業前後のサポートを受けられます。ただし、公的支援機関などでは月1回の面談や決算書の提出義務など、一定の制約もあります。

実際、OBCに入会される会員様の中には一度上記の公的支援機関に相談を受けてから来られる方もいます。また、OBCでは、会員様の自主性を尊重していますので、あえて積極的な支援は行いません。相談があった場合のみ対応する形をとっています。なお、経営の専門家に相談するのと、実際に事業をおこなっている経営者に相談するのでは得られる情報が異なります。何が自分に合っているか、どういうサービスを受けたいのかを見極める必要があります。


まとめ|オフィス選びは慎重に

オフィス選びは、事業のスタートにおいて極めて重要なポイントです。

安さだけでバーチャルオフィスを選ぶと、後で「こんなはずじゃなかった」という事態になりかねません。自分のビジネススタイルや将来の展望に合ったオフィスを選ぶことが重要です。なお、本店登記の移転には手数料が掛かりますし、それに付随した事務手続きや名刺の再印刷などのコストや手間が増えます。

OBCでは、起業支援・経営相談・実績ある運営体制を備え、安心してビジネスを始めていただける環境をご用意しています。また、提携している士業や専門家のご紹介も可能です。



余談

私がOBCに会員として入会したのは2013年です。当時はプラント設計や技術経営コンサルティングを行っていて、海外を飛び回っていました。そしてコロナ禍を経て、2022年2月にOBCの経営をM&Aで引き継ぎました。

会員としての約9年間は、一人で仕事をしていたので、人との繋がりがお客様か外注先に偏っていました。ですが、先代の経営者の方やパート社員の方、会員の士業の先生と繋がれたことで、いろいろな相談に乗ってもらったり助けていただいておりました。

かと言って横のつながりが緩いのもOBCの特徴だと思っています。特に定期的なイベントや交流会は行っていませんし、原則として会員同士を紹介することもありません。必要に応じて私が仲介することはたまにあるぐらいです。

ですが、バーチャルオフィスのように全く人との繋がりがない環境で、まして自宅で業務をしている場合、気分転換がとても難しいと思います。実際、利害関係のない相談相手がいることで、客観的な意見を気軽に聞けたり、継続的なアドバイスを受けられることもあります。これはOBCならではの良さだと思っており、私が経営を引き継いだ理由のひとつです。

最後に、これから独立・開業を目指す方にお伝えします。厳しいことを言うようですが、ビジネスは自分の思っている通りにはいきません。ですがそれを乗り越えるためには、やはり人と人との繋がりが大事なのだと思います。生成AIのように気軽に相談できる、リアルな人間関係を築くのが成功への近道だと思います。

2025年04月01日

なんでもメールで済まそうとする人は成功しない

突然ですが質問です。 初めて会った異性の方と名刺交換をし、少し会話をして別れました。その数日後にいきなりメールで結婚を申し込んだとします。この場合、答えは「Yes」でしょうか、それとも「No」でしょうか?

答えは絶対とは言えませんが、9割以上が「No」でしょう。通常、結婚という目的を達成するためには、デートや会話を重ね、少しずつ信頼関係を築くことが必要です。

ビジネスにおいても同様で、突然「仕事ください」「誰かを紹介してください」というような依頼をするのは得策ではありません。成功には段階を踏むことが重要です。

今回はメールだけで済まそうとしてビジネスチャンスを逃した方の事例を紹介しますので、営業活動に役立てていただければ幸いです。

実話:突然の依頼で逃したチャンス

ある方(以下、Aさんとします。)がOBC 大田ビジネスコミュニティセンターのレンタルオフィスへの入会希望ということで、内覧に来られました。その際に名刺交換をし、Aさんの希望や業務について詳しく話をしました。Aさんは50代後半の元技術者で、前職で部長まで経験したものの役員にはなれなかったので、コンサルタントとして独立したそうです。当然、社会人経験も豊富な方でした。

しかし、OBCの利用条件面で合意に至らないことが分かったので、近隣の別のレンタルオフィス(競合他社です!しかもOBCより高い!)を紹介しました。

それから数ヶ月後、Aさんから以下の内容のメールが届きました。

「OBC様 以前ご紹介いただいたレンタルオフィスに入会しました。ありがとうございました。 つきましては、これから事業を進めるにあたり、OBCの会員様やお知り合いをご紹介いただけませんでしょうか?」

他社のレンタルオフィスに入会したにもかかわらず、当社の顧客でもないAさんが「顧客を紹介してほしい」と依頼してきたのです。唖然としつつもメールで丁重にお断りしましたが、Noという返事以外ありえないと思わなかったのでしょうか?

なぜ直接会うことが重要なのか?

もしAさんが直接、OBCに挨拶に来て感謝の意を表していたとしたら、状況は大きく変わったかもしれません。一度顔を合わせている関係であれば、対面で事業の方向性や希望を具体的に話すことで、新たな可能性が生まれていたかもしれません。

直接会うことは、メールでは得られない信頼や関係性を築くために欠かせない手段です。メールや電話はアポを取るところまでにしてください。

まとめ:成功に必要な「回り道」

ビジネスには時間をかけて信頼関係を築く「回り道」が必要です。いきなり大きなお願いをするのではなく、小さなステップを重ねて関係を深めていくことが、成功への近道となります。

OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターでは多くの良い事例・悪い事例を紹介しながらコンサルティングを行っております。

2025年03月19日

ちょっと待って コンサルタントとして独立を検討している方へ

はじめに

昨今、コンサルタントの廃業が多いと報道されていますが、自分の経験を活かしてコンサルタントとして独立を考えている方は多いようです。既に経験のある分野で、初期投資が少なく、自宅やレンタルオフィスで手軽に開業できるので、リスクは低いように感じます。しかし、実際には多くのコンサルタントとしてが失敗しているのが現実です。この記事では、独立を考えている方が直面するリスクや成功のための準備について詳しく解説します。

独立を考える前に知っておくべき現実

1. 50代後半〜60代前半の独立は特にリスクが高い

これまで多くの早期退職者がコンサルタントとして独立するも、失敗するケースを見てきました。OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターに入会されたレンタルオフィス会員の中にも同様の方がいましたが、ほとんどの方が撤退を余儀なくされています。残念ながら成功事例を知りません。

2. 30代〜40代なら軌道修正のチャンスがある

比較的若い世代での独立であれば、途中で軌道修正が可能です。それはまだ先輩などからの助言を受け入れる土壌があるからです。しかし、それでも事前準備が不十分なまま独立すると厳しい現実に直面するでしょう。

コンサルタントの現実

3. コンサルタントは資格がなくても名乗れる

コンサルタントには特別な資格が不要で、誰でも名乗ることができます。しかし、資格があっても仕事が取れるとは限りません。市場で評価されるのは、資格ではなく能力や実績、人脈です。

4. 大手企業勤務者は要注意

特に大手企業で勤務していた方は、会社のブランドや組織の力に依存していたことを自覚していないことが多いです。独立後は、その看板がなくなり、途端に相手にされなくなる可能性が高いことも覚悟してください。また、独立後に必要な営業や経理、ホームページ等の作成等の知識や経験も足りていません。また、それらを外部に頼むとコストが掛かることも認識しなければなりません。

5. 「スキルがある=仕事が来る」ではない

どんなに高度な技術や専門知識があっても、それだけで仕事は来ません。まず営業力や人脈がなければ、どんなに優れたスキルがあっても仕事にはつながりません(医師のように実績がわかりやすい職種は別です)。

独立前にやるべきこと

6. 独立前に人脈を作る

独立してから営業を始めても遅いです。開業と同時に仕事を発注されないのであれば、はっきり言って準備不足です。理想は、独立前から安定した案件を確保できるように人脈を築いておくことです。また、既に開業した先輩経営者のアドバイスを貰うことです。

7. 顧問契約を事前に確保する

独立と同時に顧問契約が取れるくらいの準備ができていなければ、経済的に厳しいスタートになる可能性が高いです。少なくとも数ヶ月分の収入を見込める目途がついてから独立するべきです。

独立のリスク

8. 家庭があるなら慎重に

家庭がある場合、独立は大きなリスクになります。収入が不安定な期間が長引けば、家族に大きな負担がかかります。個人的な意見として、家庭があるなら独立を考えなおした方が良いです。

9. 貯金はすぐに尽きる

貯金があっても、固定費や生活費ですぐになくなります。特に収入が安定するまでの期間を甘く見積もると、資金が底をつく可能性があります。あと、厳しい意見ですが、自分の思うようには進みません。

10. 税金や社会保険料の負担が大きい

住民税は前年の収入を基に課税されるため、収入がゼロになっても税金の支払いが発生します。これを考慮せずに独立すると、予想外の出費に苦しむことになります。また、社会保険の任意継続を選択した場合、会社との折半ではなくなりますので要注意です。

11. 自宅開業のデメリット

自宅で仕事をする場合、家族に煙たがられることがあります。仕事とプライベートの境界が曖昧になり、居心地が悪くなるケースも少なくありません。

海外での可能性

今まで開業に伴う厳しい現実を書いてきましたが、海外でなら活躍の機会があるかもしれません。特に、現地のニーズに合った専門知識を提供できる場合はチャンスが広がります。ただ、これも人脈がないと海外で活躍するのは難しいです。

まとめ:独立には相当の覚悟が必要!

コンサルタントとして独立することは、決して簡単な道ではありません。安易な独立は、顧客や家族、自分自身にも迷惑をかけることになります。独立前にしっかりと準備を整え、本当に成功できる見込みがあるのかを慎重に判断してください。OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターでは、開業前の事前相談も承っております(ただし有償)。大きな決断をする前に客観的な意見を求めたい方はお問い合わせください。

参考として、クライアントの視点でどういうコンサルタントが選ばれるのやコンサルタントの役割をまとめた記事も掲載しておきます。

良いコンサルタントの見つけ方 - OBC 大田ビジネスコミュニティセンター

コンサルタントの役割について考える - OBC 大田ビジネスコミュニティセンター

2025年01月25日

【事例】契約書なしの取引が招いた債権回収トラブルと解決策

最近、OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターのお客様で売掛金ができずに相談を受ける事案が相次いでいます。契約書なしで取引を進めた結果、想定外のトラブルに見舞われた事例をもとに、契約書の重要性と取引リスクを軽減する方法について解説します。


はじめに:契約書の重要性

契約書は、取引における双方の権利義務を明確にし、トラブル発生時の法的根拠となる重要な文書です。私が会社勤めしていた際、上司から「契約書とは自分を守るための武器であり盾である。」と教えられました。

しかし、日本の中小企業では、いまだに口約束で取引を進め、トラブルになるケースが多く見られます。本記事では、契約書がないことで発生した2つの事例を紹介し、対策方法を考察します。


事例1:許認可取得代行の未払いトラブル

状況

ある行政書士が許認可取得代行を依頼され、口約束で業務を進めたそうです。業務が完遂し、請求書を送っても依頼主から報酬を支払ってもらえずどうすれば良いでしょうか?という相談がありました。依頼者とは連絡は取れるものの、言い訳を繰り返し支払いを先延ばしにされていたそうです。

解決方法

ヒアリングの結果、相手と連絡がつき、実態のある店舗でビジネスをされているとのことだったので、再度期限を決めて支払い督促し、期日までに支払いがない場合は委任権限に基づき、許認可を取り下げることことを提案しました。また、「許認可を出した行政機関にも報告する」と付け加えるようにアドバイスしました。

結果

今回は相手からの支払いがあり解決しましたが、相談者は債権回収に至るまでの精神的負担が大きかったと言っていました。今後は、契約書や見積書を提示し、支払い条件を明記したり、前金での受注を徹底するようにアドバイスしました。


事例2:商社の夜逃げ債権回収不能

状況

次に、別のレンタルオフィスの会員様から相談を受けた事例を紹介します。相談者は大手企業向けに製品を設計・製作し納品していました。しかし、その大手企業は中小企業と直接取引したがらないことから、大手企業から紹介された商社を経由で取引していたそうです。大手企業からの紹介ということで安心したため、その商社とは何ら契約書を締結せずに数年間取引していたそうです。ところが、その商社が突然夜逃げし、売掛金数百万円を回収不能に陥りました。相談者が商社の事務所を訪問したところ、既にもぬけの殻で、連絡もつかない状況でした。

解決方法

相談者には、商業登記簿を取得して商社の代表者個人の住所に支払い督促の内容証明郵便を送ったり、不法行為により法人と代表者個人を対象とした民事訴訟をすること弁護士に相談してはどうかと提案しました。本人訴訟であれば費用はそれほど掛からないことも伝えました。また、紹介元となった大手企業にも事態を説明するようアドバイスしました。

結果

相談者は、契約書がないことや裁判への抵抗感から債権回収を諦めたそうです。ただ、相談者には仕入れ代金を氏ら払う必要があったため、アルバイトをする事態になりました。


契約書作成のメリット

身近に起きた2つの事例を紹介しましたが、これらに共通するのは、やはり契約書なしに取引を進めてしまったことです。もちろん、契約書があったからと言って売掛金の回収ができる訳ではないですが、契約書があれば法的根拠として支払い督促したり、訴訟で有利になります。更に、支払い遅延の場合のペナルティや代表者個人への連帯保証をつけさせることもできます。また、金額が大きい場合は一部前金にしてもらうという方法もあります。

最も大事なことは、契約書を作成する過程で、自社にどんなリスクがあり、それを回避する方法を考える時間ができることです。これにより、相手が本当に望ましい取引先なのかを見極め、取引上のリスクを低減することができます。


契約書のおかげで訴訟に勝利

自分で契約書を作成するとなると手間や時間が掛かりますし、法律もある程度知らなければなりません。また、弁護士にリーガルチェックを依頼すると費用も掛かります。

ですが、これらの手間や費用を掛けることが自分を守る保険となるのです。実際、OBCでもレンタルオフィスの会費滞納者に対し損害賠償請求訴訟をしましたが、その根拠となるのはやはり契約書です。現在、2件の裁判が終了し、、1件は完全勝訴、もう1件は概ねこちらの主張が認められた形での和解が成立しました。両者とも会費滞納分だけでなく、違約金や延滞利息まで支払うことになりました。これらは契約書に記載があり、合意していたからこそ認められたのです。

継続取引や金額の多い取引、トラブルリスクになると感じた場合、まず契約書の作成から始めることを推奨します。相手が急いでいるとか納期がないからと言った場合でも、しっかり準備をしないと、後でトラブルになるリスクが高いです。代金を払ってもらえず、自分の支払いは猶予されず、弁護士費用まで掛かるとなると、資金に余裕がない場合、会社倒産してしまう恐れがあります。


まとめ

契約書は、トラブルを未然に防ぎ、万が一の際に自社を守る強力なツールです。特に継続取引や金額の大きい案件では、契約書を作成する時間を惜しまず、リスクを軽減するための準備を徹底しましょう。また、費用が掛かっても信頼できる弁護士を探し、リーガルチェックを依頼することを推奨します。第三者の意見や法的根拠に基づく強い契約書を作成して貰えます。

ご契約は慎重に!

2024年12月16日

コンサルタントの役割について考える

以前、「良いコンサルタントの見つけ方」という記事を書きましたが、今回はコンサルタントの役割について考えてみたいと思います。

私が考えるコンサルタントの役割とは、クライアントの意向に寄り添いながら、より良い方向に導く“軍師”のような存在です。一方、営業代行は“傭兵”のような役割だと言えるでしょう。この二つの役割には明確な違いがあります。しかし、現実にはこの違いを混同しているクライアントが少なくありません。軍師に傭兵の役割を期待されてもうまくいきません。

例えば最近、次のような依頼がありました。

  • 「開業したので何か仕事を紹介してほしい」
  • 「開業したばかりで何をして良いかわからないので、一から教えてほしい」

このような依頼にはお応えできません。それどころか、経営者としてその程度の考えしか持たずに開業したのなら、すぐに開業を取り下げた方が良いとお伝えしています。厳しいようですが、経営を軽々しく考えて欲しくないからです。そのような考えでは、経営者本人以上に、その顧客に迷惑を掛けるリスクが高いと考えてるからです。


勢いでの独立・開業のリスクと覚悟

勢いに任せて独立・開業してしまうケースは少なくありません。過去に聞いた話では、勤務先と衝突して退職したものの次の就職先が見つからず、やむを得ず独立したという例もありました。こうした場合、準備不足で苦労することが多いですが、背水の陣で業務に邁進し、結果的に成功する方もいます。

一方で、準備不足のままでは多くのリスクを抱えることになります。守秘義務のため詳細は控えますが、私がコンサルティングを行ったある士業の方の場合、開業後半年で売上250万円を超えました。その方も開業当初は不安を抱えていましたが、コンサルタントとして私が助言をすることで、軌道に乗り始めたと感謝されています。その方によると、同時期に開業した方々には既に廃業したケース、思うように案件が取れずアルバイトに専念せざるを得ないケースもあったようです。経営者としての覚悟と準備がいかに重要かを改めて感じます。


副業的開業における注意点

副業として開業を目指す方も増えていますが、注意が必要です。業種によりますが、不動産賃貸経営や転売ビジネスなどのように、比較的柔軟な時間で対応できる業務は副業に向いていると言えます。しかし、平日日中に顧客や業者との打ち合わせや役所手続きが必要な業務では、特に注意が必要です。

本業がおろそかになることで会社での評価が下がったり、顧客から対応の悪さを指摘されるケースが少なくありません。このような方に対して私は、「どこまで本気で事業を行いたいのか」「経営者としての覚悟はあるのか」を見つめなおすようアドバイスしています。

副業を成功させるためには、自身の置かれた環境や、副業を行うメリット・デメリットを十分に精査することが不可欠です。こうしたプロセスを支援するのがコンサルタントの役割でもあります。


コンサルタントの役割を理解し活用する

まずはクライアント自身がコンサルタントの役割をしっかりと理解することが重要です。「何を」「どこまで」「いくらで」「いつまでに」依頼するかを明確にすることで、コンサルタントの能力を最大限に活用できます。

OBC 大田ビジネスコミュニティーセンターでは、レンタルオフィスの会員でなくてもコンサルティングを受けられます。特に製造業、サービス業、士業に関するコンサルティングを得意としておりますので、お気軽にご相談ください。ただし、有料サービスなのと、対面でのコンサルティングが必須ですので、蒲田周辺の方限定となります。

2024年08月21日

業務改善の進め方5 社員からの改善提案は不要

以前、ある製造業の社長様から、事務や現場で働く社員からの改善提案が出ないという悩みを聞きました。その会社では過去に改善提案に対して報酬を出していましたが、それでも提案が増えなかったそうです。

このような状況に対して、「改善提案とは、実は非常にレベルの高い要求です。社員にそれを求めるのは得策ではありません。」と助言しました。今回は、社員に改善提案を求めずに改善をする方法について述べていきます。

1.改善提案の難しさ

改善提案とは、社員が自発的に業務上の問題を把握し、対策を考え、効果を試算し、書面にまとめて提案するという非常に高度なプロセスです。これは、病気の患者が自分で診断を行い、検査や治療法を医師に指定するようなものです。患者が医師に治療を委ねるのと同じく、改善提案から実行までは専門家に任せた方がより効果的なのです。

2. 社員が改善提案を出さない理由

社員が改善提案を出さないのには、下記の理由が考えられます。

  • 改善方法が不明: 問題を把握していても、どう改善して良いか分からない。
  • 自己能力不足の懸念: 複数の社員が同じ業務をしている場合、問題提起が自分の能力不足と思われるリスクがある。
  • 人間関係のリスク: 目立った行動が、同僚との人間関係を悪化させるリスク。
  • 改善失敗のリスク: 改善が失敗した場合、その責任を負うリスク。
  • 報酬の不確実性: 改善が成功しても、報酬が少ない、または確約されていないことがある。

さらに、職場からの改善提案は全体を俯瞰できていないポジションの社員が発案しますので、部分最適になりがちです。せっかく社員が頑張って改善提案を出しても、一度却下されてしまうと萎縮してしまい、次の提案が出にくくなります。

3. 専門家による問題解決の重要性

そこで、私が行う現場改善コンサルティングでは、社員から改善提案を求めるのではなく、職場の問題を抽出することに重点を置いています。職場が抱える問題点や困っていることを徹底的にヒアリングし、対策は私が考えます。ただし、改善策が押し付けにならないように、途中で職場の意見を聞きながら、経営層を含む関係者と事前にすり合わせを行います。また、本格実施前には必ずテスト運用を行い、慎重に改善活動を進めます。この手法は時間がかかりますが、失敗のリスクを最小限に抑えられます。

4. 社員モチベーションの向上

通常、コンサルタントには人事権がありませんので、社員との人間関係がうまく構築できると、気軽に相談して貰えるようになります。さらに、コンサルタントという調整役が入ることで、改善活動による社員間の軋轢を生むことがなく円滑に進められます。

また、私の場合は、改善により得られた便益を金額で評価し、その一部をボーナスとして社員に還元することを事前に社長に約束してもらいます(通常便益の1/3を賞与原資としてもらいます。)。これにより社員のモチベーションが向上するのと、コンサルタントへの協力も得られやすくなります。

また、ある程度改善活動が軌道に乗ってくると、徐々に社員たちが自ら考えて行動できるようになってきますので、コンサルティングは後方支援がメインとなっていきます。

5. 会社側にとってのメリット

会社側には一時的にはコンサルティング費用が発生しますが、その費用以上の効果を期待できます。更に社員が改善すると自分たちの収入が増えると実感できますので、より意欲的に働いてくれるようになります。

まとめ

改善提案は社員に求めるのではなく、問題提起にとどめた方が改善活動を進めやすいです。問題解決をプロに任せ、社員に手本を見せることが、より効果的な改善につながります。有能なコンサルタントに依頼することも経営者の仕事であるといえます。