人件費はコストではなく付加価値である。
人件費とは、企業が従業員に支払う給与や社会保険料などを含む会計上の費用を指します。しかし、これを単なる「コスト」として捉えてしまうと、経営者は自然と人件費削減を目指すようになり、結果として社員のモチベーション低下や企業の長期的な成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
売上高営業利益率(ROS)と人件費削減の関係
この問題の背景には、企業の業績評価指標である**売上高営業利益率(ROS)**の存在があります。一般的に、ROSが高い企業は収益性が高いとされ、株主にとって魅力的な企業と見なされます。しかし、営業利益は人件費の調整で容易に変動するため、人件費削減によってROSを引き上げようとする傾向があります。
事例比較:A社とB社
例えば、売上が同じA社とB社を比較した場合、A社は低賃金でROSが高く、B社は高賃金でROSが低いとします。株主目線ではA社が良い企業に見えますが、社員の立場からすればB社の方が満足度が高い可能性があります。では、社員のモチベーションが低いA社は、将来的に持続的成長ができるのでしょうか?
付加価値額と労働生産性という別の指標
ここで注目すべきなのが、付加価値額という別の経営指標です。これは、
付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費(+租税公課や賃借料など)
で算出され、企業がどれだけ価値を生み出しているかを測る上で、より本質的な指標とされています。さらに、これを従業員数で割ることで求められる労働生産性も重要な視点です。
中小企業にこそ重要な視点
大企業や上場企業は株主向けの報告が求められるため、どうしてもROS重視の傾向があります。しかし、中小企業や家族経営の企業では、付加価値額や労働生産性を重視した方が健全な経営が可能です。人件費・利益・設備投資のバランスをとりつつ、社員の満足度やエンゲージメントを高めることが、最終的に業績向上にもつながります。
人件費は「広告宣伝費」としても機能する
実は、人件費は広告宣伝費としての役割も果たすと考えることができます。社員の待遇が悪い企業は、口コミやSNSなどでネガティブな評判が広まり、採用難やブランドイメージの低下に繋がることがあります。一方、待遇の良い企業は社員のやる気が高く、離職率も低く、企業全体のパフォーマンスが向上します。
虚偽の労働条件が招く問題
近年では、労働条件に虚偽を提示する企業も存在し、そうした企業では社員のモチベーション低下や品質管理トラブルが頻発しています(例:某ペットフード会社など)。これは、人件費をコストとしか見ていない経営の弊害といえるでしょう。
経営者が持つべき視点:人件費は投資であり付加価値
結論として、私は自身の経営経験やコンサルティングを通じて、人件費をコストではなく「付加価値」や「将来への投資」として捉えることの重要性を強く感じています。給料を上げることは、短期的には利益を圧迫するかもしれませんが、中長期的には社員満足度の向上と企業の持続的成長に大きく寄与します。
人件費は削減すべきコストではなく、成長を生み出す源泉です。その視点を持つことが、これからの時代の経営において不可欠だと考えます。
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